あなたは「マイネル」というシンバルメーカーを知っていますか?
マイネルは、ドイツを拠点とする高品質で独創的な製品を世に送り出しているシンバルメーカー。
本国ドイツでは、「マイネルパーカッションフェスティバル」というイベントを毎年開催しているメーカーです。
このフェスティバルは、展示やイベントがドラムだけにとどまらず、パーカッションブースを多数作られます。
各ブースでは、パーカッションの用途にも注目し、どのような活用ができるかということを提案。
「マイネルファミリー」と呼ばれるアーティスト・販売店などが参加し、新たなビッグウェーブを起こすようなイベントとなっています。
この「マイネル」ですが、日本では2016年にベニー・グレブが来日し、ドラムクリニックを開催。
そして、2018年9月2日には第2回ドラムクリニックが渋谷DUOで開催されました。
このクリニックには、クリス・コールマンが来日。なんと!立ち見を含め約500人(私の印象です)ほどが参加する盛況ぶりでした。
クリスコールマンの人気が分かりますね。
ところで、クリスコールマンとは、どのようなドラマーなのでしょうか?
クリスはこれまでにもたびたび来日しているようですが、詳しい情報は多くありません。
日本では有名ドラマーというより、知る人ぞ知るドラマーと言えるでしょう。
ただし、彼のホームとも言えるゴスペル界ではとても有名なドラマーであり、日本のゴスペルイベントにも熱望されて参加しているようです。
当記事では、クリスコールマンの人物像を紹介しながら、当日のクリニックでのみどころもタップリとお話します。
Contents
当日のクリニック冒頭では、クリスが活躍したシーンとして「チャカカーンのツアー」「サマーソニックでのベック」などがマイネルの担当者から紹介がありました。
そのほかに、クリスは不得意とする分野がないと言っていいほど「ロック」「カントリー」「ジャズ」「フュージョン」などのキャリアを重ねているそうです。
スキのないドラマーですね!
とにかく「陽気で明るい」
全てを明るく前向きに受け取り、昇華させながら高度な解析を行い、アウトプットとして出すことができる人だと感じました。
それはドラミングだけに関わらず、会話・態度・姿勢すべてにおいてその姿勢が貫かれていて、素晴らしいの一言です。
事前にYouTubeで見たクリスは、身体が大きくて腕も桁違いに太く、筋肉マンのような印象でした。
しかし、実際にクリスの演奏を見ると、上腕の筋肉がとても柔らかく、肩甲骨をうまく使うことで複雑なフレーズもシンプルに演奏しているところが印象的でした。
特に肩から肘にかけての筋肉が柔らかく、豪快なその見た目とはうらはらに、終始非常に優しいタッチで演奏されていました。
柔らかなタッチから得られる柔らかな音色は、そのテクニカルなフレージングを引き立てるように音の奥行きを深めていました。
これはYouTubeとかなり違うところで、まさに「百聞は一見に如かず」です。
ちなみに、クリスはSONORというメーカーのSQ1(バーチ)というドラムを利用していましたが、当日ゲストのFUYUさんが使用しているドラム(TAMA STARウォルナット)を演奏した時も、クリスだとハッキリわかる音色で機材に左右されない演奏に驚きました。
質疑コーナーでは、レベルを問わず、どのような質問に対しても真摯に受け応えする姿が印象的でした。
おそらく意図的だったのではと思いますが、上級者から初心者・子どもといったように、さまざまな質問者を指名。
そして応える場面では、質問の内容が「フィジカル」「メンタル」のどちらでも、受け取る側のレベルに関係なく初級者も上級者も納得できるような回答をしていたのには感心しました。
これはドラム演奏だけでなく、インストラクションとしてとても高度なスキルだと感じた部分です。
この高度という言葉は「難しい」という意味ではなく、「初心者には初心者に必要な、そして上級者には上級者が必要な受け取り方のできる答え方」であったということです。
この受け応えは、とても印象深く残っています。
また、人柄をよく表しているエピソードに、「クリスはInstagramでの質問に応えてくれることがある」ということです。
彼もそのことをクリニックの中で自ら話しており、「ここで聞けなかったことはInstagramで質問してくれ」と言っていました。
この日から、私の中でクリスの印象はガラリと変わりました。
このことは当日触れられていませんが、クリスはとても熱心に練習をしていると思われます。
クリニックの最中にも、次々と「誰々著のなんとかって教則本が良い」と紹介していました。
日本でも有名な教則本はいくつかありますが、著者まで覚えているその知識は、本当にその教則本で十分に練習したからなのでしょう。
参考に、当日のクリニックで紹介された教則本をお伝えします。
当日は、ゲストのFUYUとクリス・コールマンによるデモ演奏がありました。
どちらも素晴らしいドラマーだと、ただただ実感。
フリーのドラムソロから、自らのスタジオワークとして活動中の音源にあわせて4曲ほど披露してくれました。
日本人の中で最高峰とも感じ取れるゴスペルチョップを繰り広げてくれました。
ドラムセットは、オフホワイトのTAMA STARウォルナットで2タム・2フロア。
シンバルは、当然マイネルで統一されていました。
フリーのドラムソロから、彼のデモ音源にあわせて4~5曲披露してくれました。
近年流行っている6連を連打するものではなく、オーソドックスなフィルやシンプルな手足のコンビネーションが多く、右手・右足の高速交互連打ではひときわ大きな歓声が上がっていました。
ドラムセットは、SONORのSQ1、3タム・2フロア。
こちらも当然シンバルはマイネルで統一されていました。
質疑コーナーの後にドラムセットを交代してのツインドラムによるドラムバトル。
FUYUさん、クリスともに迫力あるフレーズ・音数・音量に圧倒されます。
しかも、二人ともタイム感の素晴らしさやフレージングの多彩さが見事で、ドラムが2台だけの演奏とは思えないほど多彩な音色とダイナミクスに驚かされました。
クリス・コールマンによる質疑応答がありました。
とても参考になったので、少しご紹介します。
【質問:1】なぜシンバルを客席側へ向けているのか?
【クリス】
欲しいシンバルサウンドに欠かせない要素としてシンバルへスティックを当てる角度がある。
何か月も続けてツアーするときなど身体が楽に運動できる方が都合が良い。疲れない腕の高さにシンバルを配置すると自分に必要なシンバルの角度が決まる。
それがたまたま客席を向いた角度だったということ。
肩の高さにシンバルを置きたいんだ。
【質問:2】後ろノリに聴こえるが意識しているか?
【クリス】
プラクティス(練習)は音楽に向き合うひとつの場面にすぎない。
実際に音楽を演奏するにあたっては応用することが大切。
後ノリ、前ノリを意識すると音楽がギクシャクする。
リラックスして自然に音楽を演奏すれば後ノリ、前ノリを意識する必要はない。
その音楽が最も自然に聴こえるように自分の演奏をあてはめてみよう。
【質問:3】多彩なタッチをコントロールする重要なポイントは?
【クリス】
演奏するうえでダイナミクスは大事な要素。
ダイナミクスをコントロールすることは、会話することと同じで、怒る・笑う・眠いなど感じたことを表すことがダイナミクス。
ダイナミクスをコントロールするということは演奏者自身をコントロールするということ。
音楽は自己表現なので、会話が棒読みにはならないように音楽もダイナミクスやニュアンスが必要。
それを感じれば自然に演奏できるようになる。
音楽の技術以外も含めて感情を大事にすることが大切。
【質問:4】早いフレーズが演奏できるようになるには?
【クリス】
フレーズができる・できないはフィジカルでもメンタルでもない。
脳には音楽を処理するスピードが必要であり、それが間に合っていないことが課題。
思ったように演奏できないのはプロセッサー(脳)の問題。
脳が処理できるようになれば演奏もできる。
そのためにカウントを口ずさむのはプロセッサーをバージョンアップするのに役立つ方法のひとつ。
口で1-2-3-4-と言いながら実際にドラムを演奏してみせてくれた。
シンプルなフレーズから複雑なフレーズへ展開する間も常に1-2-3-4-と口ずさみピシャリと演奏を止めた途端に大きな拍手が沸き起こった。
この練習方法を伝えても実際にはカウントを数小節続けただけでカウントを止めちゃう人がほとんどなんだ。
そう言って実際にその止める様子を演奏しながら見せてくれたが、たしかに多くの人がそうしていると感じた。
常に続けることが大切だし、続けることは誰でも意識するだけでできる。
頑張れ!応援している!
そう力強い言葉を観衆に投げかけた。
【質問:5】ゴスペルチョップを練習しているがうまくできないコツはあるか?
【クリス】
まず大きくゴスペルとゴスペルチョップは別物であることを知ってほしい。
ゴスペル音楽を知らずにゴスペルチョップだけ練習しても意味がない。
例えばある言語を知らずにその言語は話すことはできない。
ゴスペルチョップを習得するにはゴスペル音楽をたくさん聞くこと。
ジャズフレーズを演奏したければジャズをたくさん聞くこと。
ゴスペルチョップの多くはリニアなテクニックであり、組み合わせは6通りしかない。
このコンビネーションを組み合わせて練習することで多くの音楽に応用できる。
まずは演奏しようとしている音楽をたくさん聴くこと。
練習の9割はその音楽を聞くこと。
1割がフィジカルなプラクティストレーニング。
その9割と1割が組み合わさったときに素晴らしい音楽が実現する。
【質問:6】プラクティスに関して
【クリス】
プラクティスはA~Cの3つのセクションに分けて考えると良い。
Aセクションはルーディメンツなどの基礎トレーニングをする(頭を鍛える)
Bセクションは実際にドラムセットへAセクションの練習結果を応用する(身体を鍛える)
Cセクションは音楽に合わせて練習する。音楽スタイル・テンポの異なる曲を複数準備しそのスタイルに合わせて練習する。ラジオなどを掛けながら初めて聴く音楽にその場で合わせる練習などが応用力を高めるポイントになる(応用する)
わたしがクリスから学んだことは・・・
演奏の応用は、基礎を組み合わせることであなたにもできます。
基礎を大切にする方法をクリスはとても大切だと教えてくれました。
効果的なトレーニングを行い、素晴らしい音楽を奏でましょう。