大きな音でドラムを鳴らしたい!
もちろんそういった憧れはドラマー誰しもが持っていることでしょう。
しかし、いったん小さな音で奏でることを意識してみては?
これまで見えなかった小さな音によるメリットはたくさん見えてくることでしょう。
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爆音を出すことに生きがいを感じている人もいることと思います。
かつての私もそうでした。
学生時代の私はとても音量が小さく、ミキサーのフィーダーをフルにしても周囲の音に負けてしまうような演奏スタイルでした。
そのため、バンドメンバーからは「大きな音、出せよ!」と言われ続けてきました。
悔しくて練習したことで音量は大きくなりましたが、同時に見失ったことも多かったのです。
演奏スタイルとしては学生時代がもっとも多彩な演奏ができていたように感じます。
毎日、軽音楽部のスタジオでバンド練習をしていたし、音楽の聴き方も今より集中して聴いていたことが大きな理由でしょう。
あるとき、そうやって手に入れた大きな音はギターやベースのつまみをひねる大音量アンプに負けないものにはなっていましたが、とても単調なドラムに感じました。
その後、爆音となった私を苦しめることになったきっかけは「音色が汚い」ということに気づいたからです。
大音量を目指すことで叩きつける演奏方法になってしまっていたんですね。
それから綺麗な音を目指しましたが、ついた癖というのは実に治らないもので、音色改善に取り組みはじめてから周囲に「変わってきたね」と言われ始めるまで3年を要しました。
今も奏法の見直しによって音色は改善中ですが、以前ほどの苦しみはなくなってきています。
奏法のバリエーションが増えたことも大きく影響しているのでしょう。
大きな音を目指すのは良いけれど、爆音を目指すのは私にとって良いことはあまりありませんでした。
しかし、爆音を体験したことと、そこからの音色修正がとても大変だという経験がしっかり残ったので私にとっては必要な回り道だったと思っています。
「小さな音って物足りなくない?」
そんな声も挙がってきます。
しかし、ドラムというのは普通に奏でてもかなり音量の大きい楽器。
小さく演奏したからといって、聴こえないほどの音量で演奏するのはなかなか難しいことです。
それよりも生楽器と一緒に合わせたときの演奏を考えるとpppなど普段使わない音量の領域を活用した表現ができることに気づいてほしいと願います。
大音量で演奏できる人がpppの音量まで使いこなせるならば、そのダイナミクスの範囲はとても大きいものになり、複雑なフレーズを演奏する以上に音楽へ与える影響は大きいでしょう。
ここで注意してほしいのは「小さな音=弱い音」ではない点です。
音量の小さな音を目指すのであって、弱い音(もちろん演奏上は弱い音も必要です)にならないよう演奏するのが注意してほしいポイントです。
音量は小さくてもハッキリ聴こえる粒立ちの良い音を目指しましょう。
そのためには小さな音もしっかりと演奏する必要があります。
しっかりと演奏するのに小さな音?
そこに小さな音で演奏する難しさがあります。
ぜひ、小さな音を奏でる練習をしてみてください。
あなたの演奏は見違えるほど活き活きとしたものになるでしょう。
小さな音で鳴らすことができるようになったら、その音量を演奏する標準にしてみましょう。
そうすることで、より小さな音も出すことができるし、より大きい音だって出せるようになります。
大きい音だけという表現力は聴いてる聴衆を飽きさせることに繋がってしまうこともしばしば。
また大きい音は音の圧力もあるので、聴いていて疲れます。
「音が小さいと聞こえないんじゃない?」
そう思う人も多いと思います。
しかし、演奏仲間や聴衆にはしっかり届いているので安心しましょう。
もし聞こえていなければ、その音を出そうとする明確な意識が演奏者にない場合です。
大切なことは、音量が小さくても「その音を奏でる」という意識です。
「どんなに小さな音でも聴いてる人は聴き逃さないから」
私が尊敬するドラマーと話していたときにいただいた言葉です。
柔らかいタッチで音量が小さくてもしっかりとしたビートを奏でていました。
また注意してほしいのは小さな音も大きな音も綺麗な音を奏でるという点です。
大きな音だから濁って良いというわけではありません。
もちろん濁った音が必要なジャンルもありますが、美しい音色で小さな音から大きな音まで演奏できるように心配りをしてみましょう。
それだけでバンドサウンドは大きく変わります。
小さな音で演奏することについて紹介してきましたが、小さな音で演奏することにどんなメリットがあるのか考えてみましょう。
多くのお客様は歌を聴いています。
なのにバックの演奏が爆音だったらどうなるでしょうか。
ボーカルはそれに負けないラウドな音量で歌わなければなりません。
つまり爆音で演奏することは、歌を消してしまう効果が現れてしまうのです。
バックの演奏に負けないよう歌うことは声量を上げるか、シャウトするかのどちらかへ行かざるをえません。
良いボーカリストに恵まれていたからといって、バックの爆音に負けない声量の持ち主に出会えることは稀なことでしょう。
バックの演奏は主に生音の大きさで決まります。
ギターやベースはアンプのつまみでボリュームを変えることができますが、ドラムにはボリュームつまみはついていません。
小口径のキットで演奏するという方法もありますが、全てのライブイベント会場で小口径キットが準備できるわけでもなく。
結果的にドラマーが小さな音量で演奏するスキルを身につけることがバンドサウンドを引き立てることにつながるのです。
ドラムが会場にあった音量で演奏することで、ギターやベースもその音量にあわせてボリュームつまみを調整します。
結果的にボーカルが引き立つ演奏ができるようになってくるのです。
逆に言うと、ボーカルが引き立つ音量までドラムが音量を下げる必要が出てくる必要があり、小さな音で演奏するスキルが必要になってくるとも言えます。
スタジオでのバンドリハーサルにも同じことが言えます。
多くの場合はスタジオレンタル費用も考え、バンド人数にあわせた広さの部屋を決めるでしょう。
その場合も、ドラムが音量を出しすぎると部屋の中で音が飽和してしまい、何も聞こえなくなります。
すると他の楽器もアンプのボリュームを大きくし、結果的に何を聴いているのかわからない音のバランスになりがち。
リハーサルスタジオなどでは、ドラムをミュートすることも可能です。
それでもドラムの音は大きいでしょう。
いくらスタジオが防音されているとは言っても、それは中と外の話。
スタジオの中は爆音で溢れかえっています。
つまり、ここでもドラムを小さな音で演奏するスキルが必要になってくるのです。
耳栓などで擬似的に余韻を切り取ってモニターすることも可能ですが、やはり生音を小さくできるに越したことはありません。
ライブをするとき、会場に入ってすることは何でしょうか?
もちろんセッティングもありますが、大切なのはリハーサル。
どの楽器の音量がどのくらいなのか、モニターに返してもらう楽器の音量はどのくらいなのか。
事前に確認する大切な時間です。
でもリハサールでは元気の出ない演奏になってしまい、本番よりも熱量が低いこともしばしば。
本番と同じ熱量で演奏することで、ミキサーを担当するPAさんも本番に近い音量をミックスしてくれるので気持ちを入れていきましょう。
しかし、ここでも重要なのはドラムの音量です。
ライブ会場では中音と外音というものがあります。
ステージの中で聴こえてる音を中音、観客席側で聴こえている音を外音と言い、区別して話をしたいところ。
実はPAさんがコントロールできるのは中音を外音に変えるまで。
中音がグチャグチャだとPAさんは外音を綺麗にスッキリできたりはしないのです。
つまり、ここでもリハーサルスタジオと同様のことが起きています。
ドラムの音量が大きいとギターもベースもボリュームを上げてしまうのです。
それに多くの場合、ボーカルのマイクがドラムなど他の楽器の音を拾ってしまうことからも、中音が大きすぎると観客席で聴く音は綺麗な音になりません。
ステージの上でスッキリした中音が演奏できたなら、外音も大成功でしょう。
そのためにもドラマーは自分の音量をコントロールできる必要があるのです。
電子楽器と異なり、ドラムは生の楽器。
ボリュームつまみはついていません。
だからこそ、楽器演奏の音量をコントロールするスキルを付けておきたいですね。
小さな音が映えるからこそ、大きな音も映えることを知っておいてください。