一部で相当な人気者にもかかわらず、なかなか知られていないパーカッショニストの一人としてラルフ・マクドナルドが挙げられます。
ソウル・ファンク系アーティストをプロデュースしている60年代ソウルが好きなSONYのプロデューサーさえもその名前を知らなかったというパーカッショニストであるラルフを紹介。
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スチールパン奏者の父を持ち、自身も相当なプレーヤー。
その後パーカッション奏者としてNYを中心に活動し、数多くのレコーディングに参加。
あなたもきっと聴いたことのある曲に彼のサウンドが含まれていることでしょう。
私がラルフを意識し始めた逸話がこれ。
あるレコーディング現場に呼ばれたラルフ。
その日の音源を聴いて一言。
「この曲はもう完成している。
パーカッションを入れるスペースはないよ」
当然、レコーディングなので日銭です。
ラルフは自分がレコーディングする気はないとプロデューサーに告げたことは、その日のギャラはなくてもいい、ということを意味していました。
適当に何か演奏すればそれなりのギャラをもらえるのに、パーカッションは入れない方がこの曲のためになる、と伝えられたプロデューサーはその正直さに感銘したのです。
ラルフはその日のギャラを手にし、プロデューサーは尊敬の意味を込めてそのレコードのクレジットに「パーカッション:ラルフ・マクドナルド」と記載しました。
楽曲を大切にするミュージシャンであったことが伺えますね。
ラルフの演奏動画はYouTubeにも残っています。
比較的よく見られているのが、渡辺貞夫の武道館ライブではないでしょうか。
ドラムにスティーブ・ガッド、キーボードはリチャード・ティーという豪華な面々。
スティーブ・ガッドのソロとセットでアップされている動画が有名です。
武道館でジャズのライブ、その中でもピコピコハンマーによるソロを実現させたのはラルフだけなのでは?
もしくはラルフのフォロワー様ですね(笑)
ライブでもピコピコハンマーを組み合わせたソロを見せている動画もアップされていました。
ぜひ探してみてください。
そのプレイはとてもシンプルですが、熱いものを感じさせるプレイです。
私はラルフのコンガでのプレイが好きですが、晩年、彼が残したNYでのライブ動画では右手と左手が行き来することなく左右のコンガをシンプルにプレイしていました。
また前出の渡辺貞夫のライブでもシンセドラムをセットしていますが、シンプルな効果音としてのみ利用されており、手数やトリックで誤魔化すことのない演奏が実にグっとくるポイントです。
ラルフはシンプルにしか演奏できなかったのではなく、シンプルに演奏したかったのでしょう。
私が大好きなソロアルバム「Sound Of A Drum」に収録されている「The Only Time You Say You Love Me (Is When We’re Making Love)」という曲では印象的なフィルインとして出てくるボンゴの3連フレーズは難しくて鳥肌が立ちます。
ぜひ聴いてほしい名曲です。
ラルフはプレイヤーとしても相当数の音源を残していますが、プロデューサーとしても見過ごすことのできない仕事をしています。
映画「サタデー・ナイト・フィーバー」のサントラ盤はグラミー賞で最優秀アルバム賞を獲得し、全世界で4000万枚以上を売り上げたアルバムです。
その中に収録された「カリプソ・ブレイク・ダウン」はシンプルな演奏主体の曲ですが、実に7:55あります。
レコード時代の録音としてはかなり演奏時間の長い曲。
しかも飽きることなくカリプソのノリを楽しめるのですから、演奏もすばらしいプレーヤーだったことも想像に難しくありません。
2枚組のサントラ盤でなければ、確実に後半はフェイドアウトで消されていてもおかしくなかったでしょう。
後にラルフは、このサントラ盤の収入でソロアルバムを作ることができた、と言っていました。
このソロアルバム第一弾こそが「カリプソ・ブレイク・ダウン」も収録されている前出の「Sound Of A Drum」。
ぜひ聴いてほしいアルバムです。
ラルフは後半、自身のレーベルからソロアルバムを出していたので、世になかなか流通していないアルバムもたくさんあります。
見つけたら即買いですね!
グローバー・ワシントン Jr.の有名な「WINELIGHT」というレコード。
このアルバムに収録されている有名なスタンダード曲「Just the Two of Us」をプロデュースしているのもラルフ。
曲名にある「Just the Two of Us」とは、ラルフの両親の出身であるトリニダード・トバゴのトリニダード島とトバゴ島が2つで1つの国だ、ということを意味しています。
しかし歌詞は恋人たちをとりまく美しい世界を表しており、故郷を思う心がこのような名曲を生み出すことがよくわかります。
邦題では「クリスタルの恋人たち」というタイトルが付けられており、印象深い歌詞と曲調にぴったりな邦題ですね。
ちなみに歌は、これまた私の大好きなビル・ウィザース。
しっとりした歌声を楽しんでみてください。
ラルフのソロアルバムで私が一番好きなのは「Sound Of A Drum」です。
もちろん「カリプソ・ブレイク・ダウン」も収録。
全体的に楽曲の良さが際立っていますが、メロディで聴かせるというよりも伴奏だけでもこれだけ楽しめるうえにメロディ付きだという曲が多く収録されています。
歌もメロディを奏でる楽器も必然的にそれしかないよね!と言わんばかりの説得力。
これは他のラルフのソロアルバムでも同じですが、パーカッション自体はマルチで数多くのトラックが重ねられています。
しかし、決してうるさくないのです。
この全体をうまく聴かせる技術がラルフの真骨頂と言っても良いのではないでしょうか。
まさにパーカッションという楽器の演奏だけでなく楽曲全体の配分を見渡していたからこその音楽。
プロデューサー的な視点をどうやって身に付けたのか、本人にぜひ会って聞いてみたかった。
ラルフ・マクドナルドは類稀な視点を持ったプロデューサー的パーカッショニスト。
彼の演奏したトラックが加わると曲はすっきりと整理され曲が際立ちます。
ぜひ「間」を大切にしたパーカッションを味わってみてください。
きっとあなたの音楽にもパーカッションの溢れるマジックがほしくなることでしょう。